「アリア、お前、嘘がどうしてこの世に生まれたか……わかるか?」 「……えっ? えーと……さぁ……どうしてでしょう?」 「そりゃお前、人間の生活をより良くするために決まってんだろうが」 「え……?」 「まぁ今勝手に考えたわけだがな」 ラディウスは楽しそうに…
「あの子」 ハンマーは気になっていた。「このまま別れるとは思えないような気がしてきた……」 「というと?」 ゾイロスが聞き返す。 「またどこかで出くわしそうな気がして……」 『ナニナニ? 運命の赤い糸的な奴? ひゅーひゅー』 「棒読みで囃すのはやめて…
* 今日も、「第一」へ向かっている途中だった。 石畳でできた路地を、暖かい朝の光に包まれて、ゆらりゆらりと歩いていく。両手で鞄を持ち、黒い三つ編みをふらふら揺らしていた。 春休みだけど、私は親の……というか「おじさん」の勧めで教育機関の春期講習…
朝。鳥の声と共に、彼女が目を覚ます。 「んー……っ!」 リュックの中に詰められていたパジャマを着込んだミリは、軽く伸び、全身を弛緩させ、 「とうっ」 掛け布団をはだけると、跳びあがって床に着地した。顔を洗い、備え付けのアメニティで歯を磨いて、 「…
それからしばらくゾイロスに遠い道のりを頑張って運転してもらい、ティエラの街に着いたのはとうにとっぷりと日が落ちてからだった。とりあえず終日営業している安ホテルにバギーを運転させていくと、そのホテルの従業員は四人と一機の宿泊を許可してくれた…
「無茶が過ぎませんかねぇ……」 詰まった息を吐き出す音がしばらく響いた。声は反響して黒い塊になるようだった。そのまま重く降り積もるようだった。 小型爆弾を大量に散布されながらも、一行は辛うじて生き延びていた。焦げ跡の残った服が、薄明かりに照ら…
階段が地下まで続いていた。 四人分の足音が共鳴する。ハンマーはいつ誰が現れても良いように、大金鎚を片手で持ったままだった。ヴァッサー海岸の底とは違い、確固たる地面がある事が一行を安心させる。地面の底に着いたとき、スポットライトのように外の陽…
その日は雲交じりの晴れだった。 ミューエの町は砂漠の中にある。近隣の別の街と貿易を行い、水や食料を得ている。積雲がぽかりぽかりと浮かんでいるだけの麗らかな春の陽気にあてられた町は、たとえ乾燥してても穏やかだった。 今になって、私は控えめに見…
快調に砂煙を上げ、バギーが走る。遥かに前方には、大きく広がる岩場も見て取れ、乾燥地帯に向けて走っていくのが分かった。 「ところでさ」 ハンマーは問いかけた。 「ジノとかミリちゃんとか暑くない? 日除けでもかけようか」 「そう呼ぶな」ジノグライは…
改めて、目の前の青年を凝視する。 腰まである長いベージュのジャケット、端正な顔立ち。透き通るような白髪は今はどこからともなく取り出した麦藁帽子に覆われている。そしてそのジャケットの懐に拳銃がしまわれてあることが、奥行きを窺いしれない糸目と相…
「この歓声は……何?」 『忘れてるかもしれないけど、本来バトルっていうのはスポーツであり、パフォーマンスであり、ショーだもんな』 『そしてこの惑星でも有数の人気を誇る……でしょう?』 「シエリアさん皮肉たっぷりですよ」 一行は既に、街中の適当な空…
夢を見ていた。 ……ような気がしていた。 白い部屋が目の前に浮かぶ。ガランとして殺風景な部屋で、玄関みたいな場所だった。目の前には、黒くて硬そうな扉が嵌り込んでいる。それを開ける。 開けた途端に、まだ意識は遠のいた。 目を開けると、視界が緑がか…
海面を、一台のバイクが滑走する。 「あー、モヤモヤする……」 ソキウス・マハトは、その魔力を行使することにより、バイクを宙に浮かせて海面を滑るように通行していた。ラゴスタ海峡を通り、もうすぐ対岸、ノックスの街へと到着しそうである。 「被害状況を…
「なぁ……」 そうやって後ろを振り返っても、 「……」 何も言ってくれない身体を前に、彼はただ困惑する。 「……あのー……」 しかし、その寝顔を見てしまうと、どうしても邪魔をするわけにはいかないという心理が邪魔をする。自分で考えながら、皮肉だな、と心の…
その瞬間を、ジノグライが見逃していたわけがなかった。 「推進力か!」 影の追撃を避けるために、ジノグライは疾駆しながら叫ぶ。 「知ってたの!?」 「何もないところから召還するなら、反作用で跳んでいけるのではないかと俺も思っていた!」 「そうだっ…
あらためて、部屋の中を見回す。 殺風景なわりに、かなり広い部屋だった。若干の計器類を壁に残すだけで、明るすぎる照明が煌々と部屋を照らす。ネプトゥーヌスの足元に転がっている小箱は、恐らく小型爆弾を収納するためだけのものだろう。そして、見渡すそ…
「たいくつだ……」 魔力を根こそぎ吸い取られるわけでもない。肉体に改造を施されるわけでもない。曖昧で中途半端なままの監禁状態で、どれほどの時間が経過しただろう。 アプリル・フォルミは海底とはまた別の、退屈に支配された思考の海を遊泳していた。ど…
カン、カン、カン、と可愛げの無い音がする。 内壁に打ち付けられているカスガイのような階段をひっきりなしにブーツが、スニーカーが、ローファーが踏みつける。 傾斜したままの梯子を、四人は歩いていく。一番底まで辿り着くと、円形の広い空間に出た。そ…
遠くから、ぶつぶつと怨嗟の声がする。 「アプリル……アプリル……迎えにいく……許さない……許さないよ……許さない……」 完全に我を忘れた様子のリフルが、もごもご口の中で呟いていた。 ジノグライが後ろを振り返り、ハンマーに耳打ちする。 「……あいつ黙らせられ…
幾千幾億のあぶくが艦体を包む。それらが晴れると、蒼い海の景色が丸窓いっぱいに広がった。 所謂大陸棚と呼ばれる部分を、リフルたちの乗る潜水艦は潜航していく。あまり沖には出ないように、それでもちょっとずつ陸から離れていく。 「いい? よく聞いてほ…
「どうして教えてくれなかったんですか!!」 「教える必要が無いと思ったからだ」 朝の陽光の下、太陽が燦燦と輝く空の下、本来なら明るい笑顔が飛び交うような空気の下で、いささか穏やかではない押し問答が繰り広げられていた。リフルの刺すような非難に…
あてがわれた布団は簡素で、それでも清潔だった。もちろん人数分が用意されている。 『私の分は無いのかよぉ!』 結局リフルの家に泊まることになった一行は、事情を彼の口から彼の両親に説明してもらうことにして、布団を用意してもらった。しかし、それで…
「へぇ!」 「でも……少々濡れますよ?覚悟の上で……いいですか?」 「へぇ?」 突如として、ジノグライの、ハンマーの、ミリの、それぞれの靴の裏から、水音がちろり、と響いた。 「は……貴様いったい……!?」 咄嗟にジノグライは義手を帯電させる。 「動かな…
「……」 「……」 「……」 『……』 そこにいた四人、いや三人と通信機越しの一人の意見は、「よくできすぎている」という点において一致していた。 日が傾きかけたウィリディスの街。山吹色の陽光が辺り一体を優しく包む。その西端にその森はあった。鬱蒼と茂った…
ジノグライたちの住むイニーツィオの街は、惑星の北半球に大きく跨る大陸の左、つまりは西にあった。元来、この世界の「街」は、人が何十万人と暮らせるほど広い人間たちの居住区域を指すが、それらの街はそれぞれの政府があり、それぞれに自治を行う。故に…
「この世界の人間にも属性ってのはあるよ」 「電波みたいな?」 兄妹の会話をシエリアはのんびりと見つめる。 「いやほら、魔術を使う時ってさ、凍らせたり焼いたりテレポートしたりでは全然さ、ほら性質が違うワケじゃん?」 「そりゃあまぁ……」 「やっぱり…
ナイフが弾け飛んだ。 くるくる放物線を描いて、離れたコンテナまで落ちるその前に、少女はマールスの第二撃を警戒して距離をとった。そのまま両腕を上下に重ね合わせ、小さく充填した冷凍ビームを次々放つ。それぞれ床、床、コンテナ外壁、床に着弾し、五発…
「……え?」 三度目の轟音こそ聞こえたが、熱と衝撃をあまり感じないことにハンマーは当惑していた。未だ仰向けで転んだ状態で、無防備にも程があった筈なのに、である。ふと目の前を見たところ、 「あ……っ!」 前にいたのは通信機だった。ジノグライの方に行…
ガシャン。ギュルル、ギュルル、ガチッ…… 無機質なプレートは、ハンマーが拾ったERTを鍵としてその正体を明らかにした。正三角を描く窪みにERTの爪はピタリと嵌り、ドライバーの要領で回転させると、機械音と共に複雑な記号を描く線が現れ、ERT底部に似た図…
「ただいまー」 「おーっと、お出ましか」 「おかえりなさい!」 軽やかなスニーカーの音が、玄関で跳ねる。長い黒髪と、鮮やかなピンクのパーカーがすぐに目を引く。赤いフレームの眼鏡をかけた少女が、玄関先に立っていた。その傍らに、辞書ほどの厚さの本…