SEPTEM LAPIS HISTORIA 000
「よぉい……スタート!!」
轟音が嘶く。
閃光が奔る。
金属と金属が高速でぶつかった。衝撃波と火花を散らし、両の武装が離れる。
土煙がもうもうと上がり、二人の戦士の姿を隠す。二人は人工の砂が引いてある密室に居た。壁は硬質のゴムでできている。
やがて土煙が晴れた中から、姿が現れた。
「調子は良好か……どうだ?」
義手を装備した濃紺のロングコートの青年と、
「おかげさまで」
人間大の細身のハンマーを振るう作業着の青年が居た。
「行くよ、ジノグライ!」 「来い、ハンマー」
互いの名を呼び合った戦士が、再び激突する。
頭上から鈍器が迫る。ジノグライの義手の甲はこれを受け止める。巨大な質量が交錯しあう。
ハンマーは鈍器を上に動かし、次なる一打を打つ体勢へ立て直そうとするが、ジノグライはアッパーカットの要領で拳を前に押し込んだ。ダメージが最小限になる。
質量を利用したハンマーの一撃は、今度は右から襲い掛かってきた。スイングの速度に耐えかね、ジノグライの防御が薄くなる。
鈍い金属音が軋み、響く。彼は左へと転がされ吹き飛んだ。咄嗟にとった受身が功を奏し、すぐにジノグライは次なる攻撃の姿勢がとれた。ハンマーは素早く動けない。そのうちにジノグライは切り札を炸裂させることにした。
義手で出来た人差し指を向ける。狙いはハンマー……ではなく、彼の装備。その指先に、一瞬で電力が集中する。
蒼い閃光が放たれた。高速で標的に向かい飛んでいく。
「うっ!?」 狙い違わず、電撃はハンマーの装備に命中した。
その腕からすっぽ抜け、くるくると飛んで行き、地面へと落下した。
「……ちょっと」
「……あ」
「飛び道具は禁止っていったじゃーん!!」
「あぁ……すまないつい手が滑ってしまった……」
「僕は飛び道具を持ってないんだよ!?エキシビジョンなら手加減もしてほしいよー……」
「それは謝る。だが俺に言わせれば様々な状況の戦いに対応できることが一番理想的だろう」
「あぁもう……僕は戦士には別になろうと思ってないよ?」
「自衛のためか?だがこの世界では別に戦いを挑まれることは珍しくないだろうに」
「皆争いというよりかは遊びのためじゃないかー、むしろ僕はこの『特殊能力』を持て余し気味なのに……」
「俺なんかは有用だと思うがな、そのハンマーでも投げてみたらどうだ?」
「ただでさえ僕は魔法が使えないのに……」
「俺の前で言うか?」
「あ……そうだったジノグライも……」
「はーいお疲れー!」
「む」「あ」
そう言ってフランクに話しかけてきたのは、年齢不詳の男性だった。ジノグライとは対極の黄金色のロングコートを羽織り、謎の帽子をつけている。メガネのレンズは非常に厚く、眼が映されてないようにも見えてしまう。
「いつも思うがその趣味の悪い帽子はどうにかならんのか」
「なんだよ……」
「ジバさんしょんぼりしてるよ」
「金属でコーティングされてて縦線が二本引いてあって丸いアンテナが引っ付いた帽子のどこがまともだってんだ」
そしてジノグライはジバと呼ばれた青年の帽子に付いてるアンテナを、
摘む。
引っ張る。
離した。
「いたっ」
「痛くもないだろう」
「条件反射でつい……」
「ほら、その辺にしといてあげて、ジバさんただでさえ豆腐みたいに心が脆いから」
「フォローになってないよハンマー……」
「あ」「はぁ……」
「そんで、ハンマーは……」
「あ!?行って来まーす!!」
汗を拭うのもそこそこに、ハンマーはドタドタと慌しく戦闘訓練部屋をあとにする。
「今日も工事現場で働くのか」
「そうそう、彼はアルバイトの身なのに勤勉だよね」
「全くだ、『魔法が使えない』代わりに凄まじい怪力を持っているあいつの、安心できる居場所なのかもしれないな」
チラリとジバはジノグライのほうを向いた。
「……君は?」
「少し寝ることにするぞ」
「はいはい、自室?屋上?」
「屋上」
そう言うと、ジノグライも部屋をあとにするのだった。
*To be Continued...